さくらの花が舞う頃に
家族以外の人に下の名前で呼ばれたのは久しぶりだったから、少し驚いてしまった。
「もう生徒の名前を全部覚えただなんて、さすが新任の先生は気合が入ってますね」
驚いたのをなぜか気づかれたくなくて、私は無意識にそんなことを口走っていた。
私の名前を覚えたってことは、当然クラス全員の名前を覚えたんだろうという意味で。
「は?」
案の定、怪訝な表情。
「俺、お前の名前しか覚えてないんだけど」
……え
なんで私の名前だけ……
「なんでお前だけ覚えたのかって?」
私が考えたことがわかったのか、先生がニヤリと笑って言った。