さくらの花が舞う頃に




「結衣」



小さく呼びかけると、顔をうずめていた結衣がそっと顔を上げる。



「もう、さくらのことは諦める」



そう言うと、結衣が驚いたような表情で俺を見た。



「え…………なんで?」



「たしかに、お前が言ったとおり俺はまださくらのことが好きだよ。

でも、俺がこれ以上好きでいたら、あいつは傷つくだけなんだよ。

好きな人をこれ以上傷つけたくない。 だから、好きだからこそ諦める」



もう決めたこと。



戸山に言われて、やっと自分がやらなきゃいけないことに気がつくことができた。



やらなきゃいけないこと─────さくらを諦めることに。





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