雪国ラプソディー
「……」
車が走っている間も、信号待ちの間も、脈が乱れているのではないかと思うほど息苦しい。
ーーもうすぐ駅前に着いてしまう。
どうしよう、何か言わなきゃ、と思う度に私のマイナス思考の部分が邪魔をしてきて。
もしかしたらこのまま、またいつもの日常に戻ってしまった方が良いのではないかとも思う。
何も無いまま戻って、毎日仕事に追われつつ小林さんのことを考える。
(それでもいいじゃない。恋愛は片思いが一番楽しいっていうし)
でも、でも。
いつか小林さんが誰か知らない人と買い物をしたり、食事をしたり、デートをしたり。
それを私はきっと、村山さんの電話で知ることになるんだ。
ーーやっぱりそんなの知りたくない!
「……浅見?」
「ひゃっ?!」
急に肩を叩かれ、現実に引き戻された。私はすっかり、自分の世界に入り込んでしまっていたらしい。
「び、びっくりした……」
「大丈夫か? 声かけても無反応だし、体調悪い?」
「いえ、すみません……大丈夫です」
時間には終わりがあるというのに、無駄に消費してしまったことを悔やんでいると、そのままじっと見られた。
「で、返事は?」
「ーー返事?」
何のことか分からずきょとんとしていると、本当に何も聞いていなかったんだな、とため息を吐かれた。
「明日、営業所の方の駅まで乗せて行こうか? って言ったんだけど」
「え?」
「今日は実家に泊まるから、ついでに。どうせ俺も明日は帰るだけだし」
「あ、あの、でも」
突然の小林さんのお誘いに、頭がついていかない。これは何かの罠でしょうか。何と返事をしようかと、たくさんの言葉が頭の中をぐるぐる回る。