雪国ラプソディー

ーー〝でも〟って浅見。今更何を怖じ気付いているの!


聞こえてくる自分の心の声に叱責されていると、小林さんが再び口を開いた。


「浅見、交通費全額負担だろ? 結構浮くぞ」

「本当ですか?!」


だめ押しの条件に、思わず身を乗り出していた。お金に食いついた私を見て、小林さんは鼻で笑っている。がめついやつだと思われたかもしれない。


「明日の朝、また迎えに来るよ」


その言葉に辺りを見回すと、車はいつの間にか私の宿泊するホテルの前に到着していた。だから小林さんは、さっきから私の方を見て話していたんだ。車が動いていなかったことを知り、一体どれほどの間自分の世界へ旅立っていたのかと恥ずかしくなる。


(そうだ、先に言っておかないと!)


たとえ少しの間だけでも、小林さんと明日一緒にいられるのは本当に嬉しい。それと同時に、不安な気持ちも一緒に溢れてきた。

何故なら私には、明日元々計画していたことがあるからだ。予定が変わってしまった今でも、できればそれを実行したいと思っている。
付き合ってくれるといいなと思いながら、私は小林さんを見た。


「あの、小林さん」

「ん?」

「実は私、明日行きたい所があるんです……」

「いいよ。連れてく」


いつもより少し優しい目をしてそう言われると、調子が狂って何も言えなくなってしまいそうだ。照れ隠しに私はガサゴソと手持ちバッグの中を漁った。


「あ、あの、こ、ここなんですけど!」

「……水族館?」

「はい」

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