雪国ラプソディー
私がバッグから出したのはこの地方の観光ガイドブックだ。元々ひとり旅を予定していたため、あらかじめ手のひらサイズのものを用意していたのだ。
開いたページを見た小林さんは、意外そうに言う。
「水族館くらい、そっちにもたくさんあるだろ。テレビで特集されるくらいデカい規模の」
「そりゃありますけど。みんなビルの中だし結構狭いしで、なーんか不完全燃焼なんですよね。こっちはちゃんと一戸建てですし!」
「一戸建てって……」
小林さんは、なんだか複雑そうな表情をしてガイドブックを眺めている。
もしかして、あんまり評判良くない……とか?
そう心配していると、顔を上げた小林さんと目が合った。
「まあ、こんなところが浅見らしいよな」
小林さんの言葉の意味は、彼が指をさした先を見て理解した。その水族館のページには、私がふせんとマーカーでたくさんの印を付けていたからだ。
(まずい、慌てていて見せちゃった!)
縁もゆかりも無いこの土地で、一緒にまわってくれる友達なんているわけもなかったし、ひとりで水族館だなんて寂しいやつだと思われてしまったかも。
小林さんの目が笑っている。少し細くなって目尻のところに少し皺ができる、私の好きな表情だ。その表情はなかなかお目にかかれないというのに、いつだってそれはタイミングが悪い。
「褒めてるのかけなしてるのか分かりません!」
ぷいっとそっぽを向く私に、悪い悪いと言いながらも楽しそうな小林さん。拗ねながらも、やっぱりこの空気が私には居心地が良いと感じてしまう。本当はもっとちゃんと顔が見たい。