雪国ラプソディー
「おはようございま、す」
ドアを開けて車から降りて来た小林さんを見て、固まってしまった。
そこにいたのは、確かに小林さんなんだけど。
薄いモスグリーンをベースにした、大きいチェック柄の半袖シャツを着ていることも驚きだったし、普通にブラックデニムを履くということも新鮮に感じた。
(小林さんの私服、初めて見た……)
中に着ている白っぽいTシャツに光が反射して、眩しい。初めて会った冬とは反対の爽やかな出で立ちに、暑さも相まって頭が沸騰しそうになる。
「おはよう。荷物貸して」
小林さんはテキパキと私のボストンバッグや引き出物をトランクに入れてくれた。フタを閉めてくるりとこちらを向く。すると、驚いたように目を見開いた。
「浅見、その格好……」
「え?! 私、何か変ですか?」
人の格好ばかりに目がいってしまい、一瞬自分がどんな服を着ているのか忘れて思わず見下ろしてみる。朝ご飯が服に付いてしまっていないことを祈りながら確認したが、大丈夫のようだ。
小林さんは、変じゃないけど、と前置きしたうえで言った。
「昨日はどこぞのご令嬢みたいだったのに、今日は夏休みの小学生みたいだなって思って」
可笑しそうに目を細められる。
今日の私の服装は、Tシャツにジーンズ、足元はスニーカーだ。行き先にどんな虫がいるかわからなかったので、なるべく肌を出さないようにと考えた格好だった。
どうせひとり旅だし、誰に気兼ねすることもないかと思って全く何も気を遣っていないままの。
「だって、虫に刺されるかと思ったので……」
私だって小林さんと会えるって知っていたら、スカートとかワンピースとか、もっと女子っぽい服を持って来たのに。
……とは、恥ずかしくて絶対言わないけれど。
「虫除けスプレー貸してやるよ。確か車に置いていたはずだから」
「……それはどうも」
私の真意には全く気付かずに虫除けスプレーの話をしてくる小林さんに脱力しつつ、車に乗り込んだ。