雪国ラプソディー
甘党の遺伝子
それから数分経っても、小林さんは車を動かそうとしない。むすっとしたまま外を見ていた私も、さすがに気になって運転席の方を見る。
「……あのさ」
小林さんは、前を向いたまま話しかけてきた。車を発進させる動作をするでもなく、幾分困ったような声色で。
「はい。どうしました?」
いくら地元とはいえ、久しぶりだから道をど忘れてしまったのかもしれない。
私は膝に乗せていたショルダーバッグを開けてガイドブックを漁る。確か目的の水族館は12ページ目くらいに載っていたような……。
「いや、そうじゃなくて、その……」
私のページをめくる手を制して、何かを言いよどんでいる。小林さんがこんなに言いにくそうにしていることが不思議で、私はおとなしく次の言葉を待った。
「……浅見、甘いものは平気だよな?」
想像していなかった単語が飛び出した。
甘いものと言われて、前に小林さんが送ってくれた白鳥クッキーや、その後手渡しでもらった人気のチョコレートを思い出す。ついでに、その時々での小林さんの優しさも一緒に思い出してしまい、少しぼんやりとした頭で答えた。
「ーーはい、好きです」
自分で言っておきながら、勘違いされそうなタイミングで『好き』という単語を出してしまったことに驚きと後悔が混じってパニック寸前だ。頬が熱い。
「あっ、いや! ちがっ、違うんです! 私、甘いものが大好きで!」
「さっきから大丈夫か? 言ってることが矛盾してる」