雪国ラプソディー
ひとりで勝手に過剰反応してしまい、両手を振って必死にごまかす私に小林さんは不思議そうな目を向ける。そしてその両手に押し付けるようにガサッと包みを渡してきた。
「浅見が嫌じゃなければ、だけど」
受け取ると、ほのかに甘い香り。
においに釣られてガサガサと茶色い紙包みを開くと、焼き目が付いて美味しそうなお菓子が出てきた。あの特徴的な形ではないけれど、間違いなくこれは。
「これってマドレーヌですよね? 美味しそう!」
「……俺の母親が作ったんだけど、手作りが大丈夫であれば」
「へ? 小林さんのお母さんが?」
どういうことだろう?
思わず小林さんの顔を見ると、ばつの悪そうな顔をしている。
「……昨日、実家に泊まるって話したよな。二次会が終わって実家に帰ったら母親がまだ起きてたんだよ。それでその時〝明日出かけるから早く出る〟って言ったら、質問責めにあって……」
「質問責め……?」
「会社の後輩だからって何度も言ったんだけど、張り切っちゃって止められなかった」
まさかこんなに作るとは、と力なくため息を吐く小林さんが珍しくて、プッと噴きだしてしまった。
「お菓子作りが得意なんですね」
「凝り性なんだよな。一度ハマったらとことんやる人で」
そんなどこかで聞いたことのあるようなセリフを聞きながら、見ず知らずの私のために作ってくれたお菓子に感激した。思わず袋を持つ手に力がこもりそうになってしまい、潰さないようにそっと抱え直した。
「俺ひとりじゃ食べきれない。悪いけど手伝って」
車の中で食べていいから、と言って今度こそギアをローに入れた。