雪国ラプソディー
疑似デート体験
小林さんと軽口を叩き合っているうちに、目的の水族館へとたどり着いた。
たどり着いたのだけど。
「あの」
前を歩く小林さんに声をかける。周りのお客さんの邪魔にならないよう、控えめに。
「ん?」
「もしかして、いや、もしかしなくても……ここってデートスポットですか?」
「そうだな」
そう。私は浮かれていて、すっかり忘れ去っていた。ベタなデートスポットと言えば、映画館・動物園・水族館と相場が決まっているのに。
それは私の中だけの常識ではなく、どうやら全国共通の決まりごとのようだ。
もちろん家族連れも多いけれど、やっぱりカップルが多いようで。水槽を見ようと近付いたのに、うっかり熱に当てられそうになって後ずさる。
「浅見……こんな所にひとりで……くくっ」
そんな私の様子を見ていたのか、堪えていた笑いが分かりやすく漏れている。軽く馬鹿にされていることに気付いて思いっきりにらんだけれど、照明が薄暗くてまったく伝わってくれない。
気を取り直して、目の前の円形状の水槽に並ぶクラゲたちを眺める。ふわりふわりと浮いて、まるで私と小林さんみたいだ。もう少しで届きそうなのに、近付くと弾けるように離れてしまう。
(好きって大変だ)
いつまでもこうして漂っていたいけれど、それは叶わぬ願いなんだろう。頭のどこかでは分かっていたことだ。
ーーずっと、見て見ぬ振りをしてきたから。