雪国ラプソディー
「そんな顔、するなよ」
ぽん、と頭の上に手を置かれて、心拍数が急上昇した。
「え、わた、私、今どんな顔してますか……?」
呼吸の仕方を忘れてしまったのではないかと思えるほど、ぱくぱくと口を開けて空気を吸い込んだ。
「そうだな」
少し考えるような素振りを見せた後、ぐいっと再び右腕を引っ張られる。
「わっ!」
耳元で聞こえた小林さんの掠れた声が、私の鼓膜を揺らした。
「ーー俺のことが、すごく好きって顔」
「ひゃっ……?!」
(思いっきりバレてるーー!?)
こんなに接近したのは、お姫さま抱っこされたとき以来だ。今お姫さま抱っこなんてされたら、私は間違いなく卒倒する。
私の気持ちは、一体いつから知られてしまっていたのだろう。確かに私は、顔に出やすい人間だとはよく言われるけれど、小林さんにだけは気付かれていない自信があったというのに。
「一体いつから知ってたんですか……?」
「……」
「小林さん?」
目の周りが熱いのは、顔が真っ赤になっている証拠だ。もう少し後ろに下がりたいけれど、腕がしっかりつかまれていて難しい。
小林さんを見ると、さっきとは打って変わって、目尻を少し下げた困ったときの表情をしていた。
「今」
「……え?」
「今、初めて知った」
「……どういうことですか?」
「……」
それって、つまり。
(ーーもしかして私、墓穴掘っちゃった?!)
気付いたときには時すでに遅し。
一変して笑顔を見せる小林さんは、意地悪そうに見えるよう顔を作っている。時々、すごく優しい目元になるので分かってしまった。
「人生初のナンパをしたら、まんまと浅見が引っかかった」