雪国ラプソディー
小林さんは、腕時計を確認した。
「とにかく、あまり時間が無い。急ぐぞ」
「はっ、はい!」
ここで初対面の人の足を引っ張る訳にはいかない。私は雪に足を引っ張られているけれど。(座布団一枚!)
再び歩き出そうとした小林さんは、何かに気付いたように私の足元をじっと見ている。
まさかこんなことになるとも思わずに履いてきたお気に入りのパンプスが、もうすでに雪の水分でぐちゃぐちゃだ。あんまり見ないで欲しいんですが。
彼は小さく、ふう、と息を吐いた。
「そんな靴じゃ歩けないな。歩道の除雪も間に合ってなかったし。……浅見、カバンを両手で抱えて」
「え?はい」
言われた通り、抱きしめるように自分のカバンを抱え持った。
小林さんはプロジェクターのケースをたすき掛けして背中にまわす。
「カバン落とすなよ」
そう言うや否や、小さなかけ声と共に私を抱き上げた。