雪国ラプソディー
「浅見さんしかいないんだよ、頼むから」
この通り!と両手を合わせる工藤課長を見て、返答に迷う。
「私、方向音痴ですし……」
「大丈夫!駅に迎えの社員が来るから」
「関東から出たことほとんど無いですし……」
「大丈夫!新幹線に乗ってるだけで着くから」
「そこって遠いんですか?」
「大丈夫!雪国だからちょっとは寒いと思うけど、すぐだから」
今日コート着てきてたよね?と、YESの返事をもらった気でいる課長を見て、途方に暮れる。
いや、ほんと、ちょっと待って!
今は冬本番の1月ですよ。そんなときに雪国ってどういうこと?!
もうこれは決定事項なの?
振り返ると、さっきまでコーヒーを飲んで談笑していた気がするのに、いきなり忙しそうにデスクに向かっている先輩方と目が合った。そして不自然に逸らされる。
私、もしやハメられた?!
課長は笑顔で大きな黒いケースを手渡してきた。
「じゃ、よろしく頼むよ。浅見さん」
大丈夫、それ肩に掛けられるから、と丁寧に教えてくれた。