雪国ラプソディー
雪国は不思議なことばかりだ。
ここでは誰もが知っていて当たり前の常識なのに、私は何も知らない。さっきから変な言動ばかりしているようで、それが小林さんを苛立たせているのかもしれない。
結局原因は自分だ。
ひとり気まずいやら悲しいやらでまたしても落ち込んでいると、堪えていたようなくぐもった笑いが漏れ聞こえてきた。
不思議に思って隣を見ると、小林さんは手の甲で口元を覆っていて。肩が小刻みに揺れている。
「あの……」
驚いて声をかけると、我慢の限界だったのか声をあげて笑い出した。
「小林さん?」
「わ、悪い……お祭りって……」
指で目尻を拭いながらも、まだ笑っている。
さっきまでの仏頂面が、完全崩壊だ。
「浅見の反応が、まるで別世界から来た人みたいだなって思って」
そ、そんなに面白かった?
こっちは色々考えてしまって大分へこんでいたというのに。
ぽかんとしていると「ここ数年で一番ツボに入った」と言ってまだ笑っている。
私にそのツボは全く解らなかったけれど、小林さんの笑顔を見ることができて、ほっとした。笑ったときの目元にできる優しい皺に気付いて、胸の奥がざわざわ揺れる。
もしかしたら、ほんの少しだけでも、よそ者の私に心を開いてくれたのかもしれない。ひとり勝手に嬉しくなった。
「私も、違う国に来たみたいです」
暖房が効いてきて少しだけ暖かくなった車内で。
つられて私も、笑っていた。