雪国ラプソディー
「戻りました」
小林さんの後ろにくっついて、おそるおそる第4営業所に足を踏み入れる。迎えてくれたのは、穏やかそうな男の人だった。
「おかえり、小林君……と」
「こ、こんにちは。本社から来ました、浅見と申します」
目が合うと、微笑んでくれた。隣で小林さんがうちの所長、と小さく教えてくれる。
「中村です。君が工藤さんの所の。遠いところ、今日は本当にありがとう」
「いえ、そんな」
私はただここまで荷物を運んだだけで、感謝されることは何もしていない。言われ慣れていない言葉がこそばゆくて、小さくなった。
「急に無理言って悪かったね。今回ばかりはもう本当に、駄目かと思ったよ」
工藤さんにお礼の電話しないと、と上機嫌の中村所長。
私の上司である秘書課の工藤課長と、この営業所の中村所長は、学生時代からの付き合いらしいと聞いたことがある。
「浅見」
所長との挨拶が一段落着いたところで、小林さんが手招きしている。彼は固定電話の通話口を押さえていて、誰かと電話中のようだった。
「部屋空いてるって。禁煙?」
「あっ、はい。お願いします」
今日泊まるホテルの予約をしてくれていた。さっきの今で、行動が素早い。勢い余って返事をしてしまったけれど、着実に外堀から埋められている……。