雪国ラプソディー
私は応接ソファに座らせてもらった。図々しくも中村所長にいれてもらった熱々の煎茶を飲み、出してくれた塩っ気がほど良いおかきを食べていると、もう一人男の人が奥から現れた。こっちへまっすぐ歩いてくる。
「浅見さん?」
「んぐ……ごほ、ふぁい、そうです」
まさか私に用事があると思わなかったので、口いっぱいに頬張ったおかきを、急いでお茶で飲み込んだ。
「本当に、ごめん!」
今にも土下座しそうな勢いで謝ってくるその人を見上げ、思わず目をしばたかせる。
「えっと……」
誰だろう。私は彼に何かされたのだろうか。全く心当たりが無い。
「僕が忘れてきたせいでこんな目に遭わせちゃって……」
真剣な目でごめんね、と言いながら。
彼は私の頬に手を添える。それも、ごく自然に。
ヒヤリとした冷たさの後の、指のリアルな感触に、頭が真っ白になった。
これは一体、何事ですか……?!
柔らかそうな茶色の髪。
癖なのかニュアンスパーマなのか判断が難しいけれど、着こなしの難しそうな鮮やかな青色のスーツにはよく似合っている。
謝りながらもボディタッチをしてくる彼に、激しく動揺してしまった。振りほどいてもいいものだろうか。