雪国ラプソディー
「その辺にしとけよ」
小林さんが、彼の腕をつかんで下ろさせた。それでもまだ彼は、私の様子を覗き込んで楽しそうに笑う。
「お菓子食べてるところが小動物みたいでかわいかったんで、ついつい」
〝ついつい〟のレベルではありません!
「……こいつが、プロジェクターを忘れた張本人の村山」
小林さんは、ため息を吐きながら紹介してきた。一言余計ですよ、と文句を言う村山さん。
この人が先週本社に来ていた社員だと知り、慌てて立ち上がる。
「ど、どうもはじめまして。浅見です」
「浅見さんて、写真で見るより実物の方が断然いいね」
「えっ……」
なんて馴れ馴れしい人なんだろう。
両手を握られて「手、あったかいねー」と話しかけてくる。私はこういうときにうまい切り返しができないタイプの人間なので、何て言えばいいのか分からずにただひたすら焦る。
「村山、いい加減にしないと今日全額お前の奢りだからな」
「えーっ、小林さんひどいっすよー」
パッと手を離される。本気なのか冗談なのかわからない飄々とした雰囲気に、一瞬飲まれそうになった。
何なんだ、この人。
「ところで村山くん、準備は大丈夫なの?」
「あっ、そろそろヤバいですね!じゃあまた、浅見さん」
後ろで見ていた中村所長に促され、軽やかに立ち去っていった。
所長は困ったような顔で、悪いねと声をかけてきた。
「村山くん、仕事はできるんだけどねえ」
「あ、はは。面白い方ですね」
引きつりながらなんとか答えた。小林さんは、村山さんの態度が気に食わなかったのか、機嫌が悪い。
「浅見、あいつのことは気にしなくていいから」
ひ、怖い。
目つきが氷のように冷たい。
小林さんは、中村所長に「フォロー行ってきます」と言い残して村山さんの歩いていった方へ向かった。