雪国ラプソディー
「当初の予定通り、金曜だったらまだ間に合ったんだけどな……」
小林さんの視線の先を見上げると、壁にカレンダーが貼ってあった。今週の金曜日に丸が付いてある。きっと、元々の来訪日だったのだろう。
「日程が変わっちゃったんですね」
「そう。それも先週の金曜日に」
「え、それはまた急でしたね。ほとんどドタキャンじゃないですか」
よくあることだよ、と自嘲気味に言う。
この営業所が生き残っていくためには、多少無理しても相手に合わせる必要があるということか。さっき中村所長が言っていた、瀬戸際という言葉を思い出した。
「ここで逃げられたら元も子もないからな。即了承してしまったってわけ」
プロジェクターを忘れたことに気付かないままな、と笑った。
「村山を責めることなんてできない。ちゃんとフォロー出来なかった俺に責任がある」
息を吐いた小林さんは、悔しそうだった。先輩として、後輩の仕事を見守っているのだとよくわかった。窘めてはいるけれど、村山さん同様、信頼はしているようで。
「浅見にも、迷惑をかけたな」
急に話を振られて、なんて答えたらいいのか迷う。もう迷惑だなんて全く思っていなかった。どうして私がここに来ることになったのか、真相を聞けてよかったと、心から思った。
「迷惑だなんて……それより小林さん、質問の答え聞いてませんよ」
「ん?」
照れ隠しについつい大きな声。小林さんは私が質問した意味がわからないようで、不思議そうだ。
「この雪で向こうがキャンセルしなかった理由ですよ。今日お客さん本当に来られるんですか?」
「ああ、それなら。だって先方、すぐそこだし。……一応延期するかどうか朝イチで確認はしたけど」
「……」
ちなみに商談相手の会社の場所は、目の前の通りをまっすぐ行って、交差点を左に曲がるとすぐ、だそうです。
……村山さん、近所の会社と仲良すぎでしょ。普段どんな営業しているの。