雪国ラプソディー
「領収書ちゃんと貰えよ」
車から降りようとした私は、かけられた言葉に思わず動きを止めた。
「……領収書?」
「言っただろ。経費で落としてもらえ。浅見が自腹で買う必要なんてない」
連絡不足が原因の買い物とは言え、さすがに私物を経費で落とすには気が引ける。
「いえ!大丈夫です、自分で払いますから」
「なら俺が出すよ」
「えっ」
驚いて振り返ると、小林さんは思いのほか真剣な表情をしていた。
「何で小林さんが。本当に、気にしないでください」
「気にするだろ」
「どうしてですか」
「こっちの都合で無理に来させたのに、浅見に負担させるのは筋が通らない」
小林さんが食い下がるので、変な汗が出てきた。私に損がないように考えてくれていることが真剣な目から伝わってくる。その気持ちは素直に嬉しい。
でも……でも今は、本当にご遠慮願いたい。
「いや、えっと、大丈夫ですから……」
だって、これから私が買うものって。
小林さんに買ってもらうだなんて、想像しただけで顔から火が出そうだ。今にも車を降りそうになっている彼は、きっと気付いていない。ちゃんと言わなければ。
「あの!」
思わず小林さんの腕をつかんでいた。彼が振り返る気配がするけれど、恥ずかしくて顔をあげることができない。
「……したぎ、とか買うので、そっとしておいてください……」
蚊の鳴くような声に、今度は小林さんの動きが止まる。
「……悪い」
ためらいがちに、頭上から小さな謝罪が聞こえた。