雪国ラプソディー
ーーーーー


「改めて、今日は本当にありがとうね」


村山さんが私に向き直って話すので、私も食べるのをやめて背筋を伸ばした。何度もお礼を言われるとくすぐったい。


「あのパワポを見せられてなかったら、ちょっと危なかったかも」

「紙資料だけじゃイメージしづらいって言われたしな。良かったんじゃないか」


村山さんの言葉に小林さんが同調する。きっと時々こうして反省会を開いているんだろうな、とわかってしまうほど真剣に仕事の話をしている。

突然あーっ、と大きな声を出して私を見る村山さん。


「浅見さんに見せればよかった。僕の渾身の力作」

「へえ、興味あります」


……なーんて言ったのが運の尽きだった。
村山さんは目をきらんきらんに輝かせて説明を始めた。


「今回は新しい管理システムの提案をしたんだ。
相手先はレンタル重機の会社なんだけど、今までの紙管理は廃止して全てデジタル化する。メリットは、どの機械が利用できて、空いていないものは今どんな状況にあるのか一目瞭然になること。しかもタブレットとも連携オッケーだから持ち運べるし。
このビジネスモデルが上手く確立できたら、この地方を攻める足掛かりになるんだ。
……結構イケてると思わない?」

「は、はあ……」


聞かなきゃよかったかも。
何を言っているのか全然理解できない。


「村山、その説明だと端折られすぎてて浅見がついて来れない」

「あああ、ごめんね。テンション上がって喋りすぎちゃった」


酔いと照れ笑いが混じって顔が赤い村山さんは、スイッチが入ると意外と熱い人なのかもしれない。これは新しい発見だ。


「私こそ理解力が乏しくてすみません……。村山さんにとって、とても大事な仕事だということはわかりました」

「僕にとってもだし、この営業所にとっても、ね」


村山さんが柔らかい笑顔を見せて言うと、小林さんが安堵したように呟いた。


「首の皮一枚繋がったな。俺の持ってる案件は契約がもう少し先だから、これがダメだったら正直どうなっていたか」


会話の内容からすると、この営業所の存続ってかなり危なかったのではないのだろうか。もし私がプロジェクターを届けられていなかったら、と思うと急に体が震え出す。
そんな私の様子に気付いたのか、村山さんが顔を覗き込んできた。


「どうかした?」

「わ、たし、そんな重大なおつかいだとは思っていなくて……良かった、無事に届けられて」


本当に安心して、体の力が一気に抜けた。思わずテーブルに突っ伏してしまった私を見て、みんな謝りながらも笑っている。


「今回のようにならないためにも、新しい機械が買えるよう頑張らなきゃ」


これ以上浅見さんに迷惑かけるわけにはいかないし、と残ったビールを飲み干す村山さん。


「そうだな。まずは売上目標達成して稟議を却下されないようにならないと」


同じ目標があれば、団結力は強くなる。中村所長は、あえて何も言わない。ちらりと目が合うと、にっこり頷いた。


< 43 / 124 >

この作品をシェア

pagetop