雪国ラプソディー
風雪注意報
それから、地元産の食材を使った料理を沢山食べて、美味しいお酒も飲んだ。普段はそんなに飲まない私だったけれど、中村所長にびっくりするほど飲みやすいお酒を教えてもらい、楽しく過ごせた。
「外で言わないでね。手に入らなくなっちゃうから」
というのは、中村所長の弁。
飲み会がお開きになったのは、2時間くらい経った頃だった。結局お会計は、中村所長が持ってくれた。
居酒屋からホテルまでは歩いて行けそうなので、私はタクシーで帰るというみんなを見送る。
「ごちそうさまでした!美味しかったです」
「こちらこそ。今日は助かったし、楽しかったよ」
久しぶりに飲めたしね、と、中村所長は相変わらず優しい。お店のお酒も料理も美味しすぎて、ついつい食べ過ぎてしまったことを申し訳なく思った。きっと高くついてしまっただろう。
「浅見ちゃーん、今度本社に行ったら飲もうねー」
「そうですね……って、わわっ」
村山さんは大分酔ってしまったようで、私の肩を抱いて顔を近付けてきた。大きな目が眠そうにトロンとしている。
「村山さんてば、飲み過ぎですよ」
典型的な酔っ払いの言動に笑ってしまう。
やんわり離れようと肩を押したけれど、意外と力が強くてびくともしない。
「ち、近いですって……!」
浅見ちゃんと帰るー、と私を離してくれない様子に困っていると、村山さんの背後に黒い陰がのびた。
「村山、お前は所長のタクシーに相乗りして帰れ」
小林さんが村山さんを私から引き剥がして、中村所長が乗り込むタクシーに押し込んだ。
そのままタクシーは発進してしまい、私は慌てて小林さんに声をかける。
「小林さんも乗らないと!」
「いや、いい。ホテルまで送ってく」
「すぐそこですから、私は大丈夫ですって。それよりタクシー……」
今日はこの雪だし、きっとタクシーは捕まりにくいはずだ。心配する私をよそに、小林さんは強引に私の手首をつかんで歩き出した。
「え、ちょっと小林さん!」
「俺は代行呼んで帰るから」
そのまま引きずられるように歩くことになった。必死に抗議の声を上げる。
「ひとりで歩けますから、離してください」
完全無視。結構強く握られていて手首が痛い。私は、仕方ないので黙ってついていくことにした。