雪国ラプソディー
さっきから風が強く吹いている。
髪の毛を気にする余裕もないほどの強風に、時々目が開けられなくなる。
辺りは道路と少しの街灯しかないので真っ暗なはずなのに、積もった雪でぼんやりと明るかった。
私の手を引く小林さんの背中も、私より一歩先にできていく大きめの足跡も、全部分かってしまう。
一体どういうつもりなんだろう。
ただ優しいだけとも違うその行動に、私は戸惑いを隠せなかった。
やがて予約してもらったビジネスホテルの前に着くと、小林さんは手を離して振り返った。
目のすぐ下、頬骨のあたりが赤く染まっている。アルコールのせいとは言え、色気を帯びたその眼差しにドキリとした。
「浅見は隙が多すぎる。自覚無いだろ」
「は、はあ……」
じっとにらまれるように見つめられて、その場から動くことが出来ない。
「そんなんじゃすぐに食われるぞ」
「食わ……ちょっと、変なこと言わないでください!」
びっくりした。何を言い出すのかと思えば。さっきの村山さんのことを気にしているのだろうか。
「村山を迎えに行かせなくて良かったよ。あいつ、浅見のこと相当気に入ってる」
「もう、そんなわけないじゃないですか。小林さんも酔っ払ってます?」
「だから、そんな鈍くさいから付け入られるんだよ」
苛々したような声で言われたので、つい喧嘩腰になった。私だって、好きでこんな性格をしている訳ではないのに。小林さんと、少しは仲良くなれたつもりでいたので、そんな風に怒られると悲しくなってくる。さっきまでの楽しかった気持ちが急速にしぼんでしまいうつむいていると、小さな声がした。
「いや、そんなことが言いたいんじゃなくて……」
その言葉に顔を上げると、小林さんは困ったような目をしていた。
真意が汲み取れずにそのまま小林さんを見ていると、視線を逸らされる。
「……明日、9時半に迎えに来るから。ロビーにいて」
それだけ言うと、くるりと向きを変えて、来た道を戻っていく。
ちらつき始めた雪が止まない強風に乗って、縦横無尽に吹き荒れている。髪の毛が飛ぶように流されて、頬が痛いほど冷たい。
凍えるような寒い夜だった。