雪国ラプソディー
どこへ向かっているんだろう。
ハンドルを切った彼の横顔をちらりと盗み見たけれど、相変わらず何もわからない。近付いたようで、やっぱり何も距離は縮まっていないのかもしれないと、苦しくなる。
「村山が二日酔いでグロッキーだった」
しばらくして、小林さんが思い出したように言った。村山さん、なんとなくお酒弱そうには見えたけど。
「迎えに行ったらしんどそうだったよ」
「小林さん、村山さんのこと迎えに行ったんですか?」
「ああ。あいつ昨日車置いて帰っただろ。そんな時はいつも俺が」
暗黙の営業所ルールなんだろうか。小林さんだけ代行で帰ったから変だなとは思ったけど。
「お互い一人暮らしだから、助け合ってやってるよ」
昨日から感じていた絆や団結力は、こういった日々の生活から培ってきたものなんだろうな、と思った。
「お二人とも実家じゃなかったんですね」
「さすがに実家からじゃ通えないよ。俺はまだしも、村山のところは絶対無理」
行ったことがあるのか、感慨深そうに頷く小林さん。絶対無理って、村山さんの実家は一体どんなところにあるんだろう。
「それにしても」
十字路を曲がった時に雪が跳ねたのか、小林さんはワイパーを数回動かしながら続けた。
「浅見はあんなに飲んだのにケロッとしてるし、村山とのギャップが面白いな」
「いやいや、私は全然飲んでなーー」
「村山が弱すぎるってこと?」
「あ、いえ、別にそういう意味じゃ……」
「へえ。浅見って結構毒舌だな」
村山さんをフォローすればするほど、どんどん墓穴を掘っていってしまう。
どうしたらいいの。
何か気の利いた言葉はないかな、と考えてハッとした。勢いよく隣を見ると、声を出さずに口元だけ笑っている小林さんが視界に入ってくる。
「ーーもしかして小林さん、私のことからかってます?」
「いや、別に」
そう言いながらも楽しそうだったので、私は余計に恥ずかしくなった。
ーーもう、何でしれっと意地悪なこと言うんだろう。
むくれて窓の外を見ていると、車がコンビニの駐車場へと入っていく。
「トイレ行くなら今のうちに行っておいて。この先もう無いから」
「え?!」
不穏なひとことを残して出て行く小林さん。
「え、ちょっ、ちょっと待ってください!」
私は慌てて追いかけた。