雪国ラプソディー

「今から行くところは、気分転換だと思って」


ペットボトルをホルダーに預けて、車は発進する。私はそのラベルを見て、思わず声をかけた。


「小林さんって、甘党なんですか……?」


小林さんが飲んでいたのが、甘くて有名なコーヒー牛乳だったから。


「何だよその顔は。酒飲んだ次の日は甘いもの飲みたくなるだろ」

「何ですかその自分ルールは」


小林さんの主張に思わず笑うと、ふい、と顔を逸らされた。頬が少し赤いことに気づいて、私は更に笑みを深くした。



コンビニを出て道なりに進んでいくと、だんだん周りの建物がなくなっていく。

すると突然、全方向の視界が開けた。
同時に車内へ強烈な光が射し込んできて、思わず目を瞑った。
前を見ることは眩しくて不可能だったので、助手席側の窓の方へ顔を向けた。薄目を開けると、どこまでも続いている青い空。そして、白い大地。


「わ!すごい……」


雪原と言うには大袈裟かもしれないけれど、真っ白が遙か遠くの山の方まで広がっている。絨毯どころか、ものすごく広い雪のグラウンドだな、と思った。野球もサッカーもラグビーも一気にできちゃいそうだ。


「あんまり見るなよ。目が潰れる」


小林さんは運転席のサンバイザーを下げながら言う。雪の眩しさで目が潰れるなんて、そんなこともあるのか、と驚いた。


「ここは何ですか?」

「田んぼ」


……そうですか。
返事が単語って。会話が続かない。

右隣をちらりと見ると、眩しそうに目を細める横顔が目に飛び込んできた。


ーーう、何だかサマになっている。


こんな時に、昨日村山さんが言っていた言葉を思い出した。


〝でも何故かモテちゃうんですよね、小林さんて〟


物事には必ず理由があると思う。
言い方はキツいけれど後輩思いの優しさがあるところとか、口下手だけれど気遣いができるところとか、運転している横顔が真剣で頼もしいところとか。それから……。


『それでは、県内の交通情報です!』


見知らぬ女の人の声が聞こえて、我に返った。この場に合わないよく通る高い声は、ダッシュボード横のスピーカーから聞こえてくる。
小林さんは、ラジオの音量を調節しているところだった。


ーー私、今何を考えていたんだろう。


自分の気持ちがよくわからない。
昨日から、ずっと。

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