雪国ラプソディー
しばらくお互い無言で、ラジオから聞こえる声だけが響く。地元のタレントらしき人がテンション高く盛り上がっていた。
車は来た道を順調に戻り、さっきのコンビニの前を通過する。
『それではですね、ここで、昨日発売されたばかりの新商品をーー』
プツン
それまで聞こえていた賑やかな声が突然途切れたので、視線を窓の外からカーオーディオへ移す。小林さんの左手がラジオのスイッチをオフにしたところだった。
「あのさ」
少し固い声がする。
改まって、一体どうしたんだろう。
「はい」
隣から小さく息を吐く音がした。言いにくそうに小林さんが話し始める。
「昨日の、帰り際のことだけど」
ドキリ、と心臓の音。びっくりするくらい大きく跳ねた。
「え、は、はい」
動揺しすぎでしょ、私!
昨日つかまれた手首を、思わずさすった。また熱を持ち始めたように錯覚してしまう。
小林さん、覚えていたんだ。
今朝会ったときは自然な態度だったので、すっかり酔っていて記憶がないものとばかり思っていた。
「昨日浅見にあんなことしておいて、言い訳がましいけど。心配なんだよ」
心配って、私を?
「浅見は、都会の洗練された雰囲気も無ければ、全く何の免疫も無い。すぐ人に騙されそうだし」
「……もしかして私、今ものすごく悪口言われてますか?」
矢継ぎ早に発せられた言葉に、ショックを受けた。小林さんは、少しだけ早口になって続ける。
「違う、逆だよ。今朝だって一旦営業所に連れてこいって言われたけど、」
そこまで一気に言って、ハッとしたような顔をした。私も、あれ、と気付く。
さっきはそんな話していなかったような……。
小林さんは、小さな声で続きを言った。
「……村山が今度こそ送っていくとか言い出すから断ったし」
「え」
ーー今、なんて。