雪国ラプソディー
私、困っています。
突然ですが私、困っています。
「浅見さん!」
呼ばれた声に振り返ると、隣の席で満面の笑顔の先輩。彼女がこの顔のときは、まずい。
「あの、私、今日は休みってことに……」
そんな私の発言は黙殺されて、先輩は電話の相手に愛想良く答える。
「今浅見と代わりますねえ。……浅見さん、外線7番」
「相川さん、私っ」
首をぶんぶん振りながら拒否の姿勢を取るけれど、先輩は涼しい顔をしてもう自分の仕事に戻っていた。私の目の前にある固定電話を見ると、7番のランプが赤く点滅している。
「せっかく彼氏が電話くれたんだから、出なきゃだめじゃない」
「だ・か・ら、彼氏じゃないって言ってるじゃないですか!」
「保留中は相手をお待たせしない。……社会人の基本だよね?」
……それを今持ち出しますか。
笑顔なんだけど冷たいオーラを放つ先輩に凄まれて、それ以上何も言えなくなる。
私はため息をひとつ吐くと、受話器に手をかけた。
ーー私は知っている。
いや、私だけではない。このフロアにいる人間なら全員知っている。
「……お電話代わりました。浅見です」
『おはよ。浅見ちゃんの声を聞くと、今日も癒されるなあ』
ーーこの電話は、決して私宛てではないことを。