雪国ラプソディー
・・・・・
「失礼します」
いつ来ても営業部は忙しそうだ。
電話をかけて取引先へアポイントをとる人や、書類を作成するためにキーボードを忙しなく打つ人、これから客先へ出向こうと車の鍵を持って早足で出て行く人など、様々だ。
きょろきょろと見渡してみたけれど、ここに小林さんはいないようだった。まだ来ていないか、別の場所にいるのかもしれない。私は落胆のため息を吐くと、気を取り直して営業部長の元へ向かった。営業部はただでさえ人数が多いため、各人の席の間を通るだけで圧倒されてしまう。
「ーーん? この前の出張申請? ああ、あれか。ちょっと待って」
営業部長に声をかけると理解したようで、すぐにガサガサと机の引き出しを漁り、課長の欲しがっていた一枚の紙を取り出した。
「悪い悪い。急いでいて添付するのを忘れていたよ」
「いえ、ありがとうございます!」
受け取った領収書を取り込んでデータ添付するために、一旦営業部フロアを出てコピー機へ向かう。紙をセットしてスタートボタンをちょうど押したとき、不意にコピー機の画面が暗くなった。
自分の影ではないことに気付いて見上げると、そこにいたのはーー。
「浅見、久しぶり」
「わっ! こっ、小林さん……!」
予期せぬ登場に、心拍数が急上昇する。濃紺のスーツに身を包んだ小林さんは、ぱっと見ダウンジャケットと長靴で通勤しているようにはとても見えなかった。
「……」
「何だよ黙って」
何も言わない私に小林さんは不思議そうだ。こういうときは、何て言えばいいのだろう。頭の中を色んな言葉が駆け巡る。
「あの、私……」
小林さんは、相変わらずのポーカーフェイスで私を見ている。
「営業部長の書類を貰いに来たんです」
決して小林さんが来ているかどうかの確認に来たのではなく、あくまで仕事だと強調したかった。ほんの数パーセントはやましい気持ちもあるけれど……。
それを聞いた小林さんは、吹き出した。
「何を言うかと思えば……見れば分かるよ」
小林さんは私の後ろにあるコピー機をちらりと見る。
さっきまでは絶対にいなかったはずなのに、一体いつからここにいたんだろう。
どうやら要らない説明をしてしまったようで恥ずかしく思っていると、彼の次の言葉に固まった。
「一瞬、浅見に告られるのかと思った」
「な、何言ってるんですか!」
面白そうに言う小林さんを見て、私は必死で否定する。どんなにからかわれても平気なつもりだったけれど、今のは胸の奥がチクリと痛んだ。
私の気持ちが知られたら、きっとこんな風に話が出来なくなる。そう思うと、ずっとこのままでいたいとすら思ってしまう。
私は、弱い人間だ。
「失礼します」
いつ来ても営業部は忙しそうだ。
電話をかけて取引先へアポイントをとる人や、書類を作成するためにキーボードを忙しなく打つ人、これから客先へ出向こうと車の鍵を持って早足で出て行く人など、様々だ。
きょろきょろと見渡してみたけれど、ここに小林さんはいないようだった。まだ来ていないか、別の場所にいるのかもしれない。私は落胆のため息を吐くと、気を取り直して営業部長の元へ向かった。営業部はただでさえ人数が多いため、各人の席の間を通るだけで圧倒されてしまう。
「ーーん? この前の出張申請? ああ、あれか。ちょっと待って」
営業部長に声をかけると理解したようで、すぐにガサガサと机の引き出しを漁り、課長の欲しがっていた一枚の紙を取り出した。
「悪い悪い。急いでいて添付するのを忘れていたよ」
「いえ、ありがとうございます!」
受け取った領収書を取り込んでデータ添付するために、一旦営業部フロアを出てコピー機へ向かう。紙をセットしてスタートボタンをちょうど押したとき、不意にコピー機の画面が暗くなった。
自分の影ではないことに気付いて見上げると、そこにいたのはーー。
「浅見、久しぶり」
「わっ! こっ、小林さん……!」
予期せぬ登場に、心拍数が急上昇する。濃紺のスーツに身を包んだ小林さんは、ぱっと見ダウンジャケットと長靴で通勤しているようにはとても見えなかった。
「……」
「何だよ黙って」
何も言わない私に小林さんは不思議そうだ。こういうときは、何て言えばいいのだろう。頭の中を色んな言葉が駆け巡る。
「あの、私……」
小林さんは、相変わらずのポーカーフェイスで私を見ている。
「営業部長の書類を貰いに来たんです」
決して小林さんが来ているかどうかの確認に来たのではなく、あくまで仕事だと強調したかった。ほんの数パーセントはやましい気持ちもあるけれど……。
それを聞いた小林さんは、吹き出した。
「何を言うかと思えば……見れば分かるよ」
小林さんは私の後ろにあるコピー機をちらりと見る。
さっきまでは絶対にいなかったはずなのに、一体いつからここにいたんだろう。
どうやら要らない説明をしてしまったようで恥ずかしく思っていると、彼の次の言葉に固まった。
「一瞬、浅見に告られるのかと思った」
「な、何言ってるんですか!」
面白そうに言う小林さんを見て、私は必死で否定する。どんなにからかわれても平気なつもりだったけれど、今のは胸の奥がチクリと痛んだ。
私の気持ちが知られたら、きっとこんな風に話が出来なくなる。そう思うと、ずっとこのままでいたいとすら思ってしまう。
私は、弱い人間だ。