雪国ラプソディー
(うう、どうしよう……涙が止まらないよ)
すれ違う人がギョッとしながらこちらを見てくるのがわかり、徐々に冷静さと恥ずかしさが戻ってくる。このまますぐにホテルに戻ることは難しいと判断した私は、自分の荷物と引き出物を抱えながら、よろよろとエントランス近くのソファへ腰を下ろした。
ここで少し休ませてもらおう。
ーーああ、本当は小林さんともっと話したかったな。
気付いたら姿が見えなくなっていて、結局話せず終いだ。このぐちゃぐちゃな顔を見られなかっただけ、良かったと思うことにしなければ。そうでもしないと、一生後悔しそうだ。
とても座り心地の良いソファに、深く身を沈める。
私は、いつまでこうやって意地を張り続けるつもりなのだろう。もういっそのこと、玉砕覚悟で気持ちを伝えた方がすっきりできるはずなのに。
あの冬の日から今まで、ずっと胸の奥で絶やさずにいた暖かい気持ちは、小さなたき火のように頼りない。その火を消さないように、少しずつ薪をくべながらここまできたけれど。
(……あんなに幸せそうな2人を見た後での失恋は、きっと堪えるだろうなあ)
私にはまだ、消火する勇気がない。