雪国ラプソディー
思い出と約束
駐車場は、ホテルの地下にあった。
コツコツと靴の鳴る音が響く。
「今日このまま向こう帰るの?」
「あ、ええと、今日は駅前のホテルに泊まって、明日帰るんです」
「ふうん」
ーー今だ浅見! このまま明日空いてるか聞いちゃえ!
心の声が聞こえる。意識すると心拍数が上がってしまい、それだけで息苦しくなる。
(やっぱり無理だよ……断られたら怖いし)
トランクを開けた小林さんは、私の荷物を積んでくれた。
「ありがとうございます……」
乗って、と促されて、助手席のドアに手をかける。途端、あの時の記憶が蘇ってきて動きが止まった。
初対面のまますぐに営業所に連行されたこととか。
次の日一緒に白鳥を見に行ったこととか。
まだ一年経っていないというのに、何年も前のことのように懐かしい。
「どうした?」
いつまでも車に乗らない私を不思議に思ったのか、先に乗っていた小林さんが助手席の窓を開けて声をかけてくる。
「な、何でもないです」
ハッと我に返ってガチャリとドアを開けた。ドレスの裾を引っかけないように注意しながら座席に座り、シートベルトを締めようと手をかける。
「浅見の好きな後部座席でもいいよ」
同じようなことを考えていたのか、意地悪そうに笑う。私はちょうどシートベルトを引っ張ってバックルにはめようとしていたので、小林さんと至近距離で目が合ってしまった。
「もう! 恥ずかしいから忘れてください」
ふいっと助手席の窓へと顔を向ける。窓ガラスに映った自分の想像以上にひどい顔を見て、小さくため息を吐いた。