冷徹上司は大家さん!?
「よっし、終わった!」


 昼休みを返上して頑張ったかいあって、なんとか定時に引き継ぎの資料を仕上げることができた。


 今日はもう予定もないしこのまま上がろう、と帰り支度を始めると、フロア入口のドアが開き浅野課長が入ってきた。


「永原、今ちょっといい?」

「あ、はい」


 なんだろう。異動した後のことについての打ち合わせかな。

 私は言われるままに浅野課長の後をついて行った。


 空いているミーティングルームに入り、椅子を勧められ座る。


「実はさ、今うちの課けっこう忙しくて。ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんですか?」

「毎週水曜料理教えることになってるだろ? あれ、しばらく休ませてほしいんだ」


 なるほど。「社内で一番デキる男」と噂の浅野課長が予定をキャンセルするなんて、相当忙しい時期なんだろう。


「ああ、大丈夫ですよ」

「悪いな」


 理沙さんのこともあるし、水曜の約束は断らなきゃ……と考えていたところだったから、ちょうどよかった。

 ちょうどよかった……はずなんだけど、少しがっかりしている自分がいる。
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