冷徹上司は大家さん!?
「お待たせ。ちょっと前髪上げてくれるか?」

「あの、浅野課長。ここって、このアパートの大家さんの部屋ですよね? どうして課長がこんな所にいるんですか?」

「そりゃ、俺がその大家だからに決まってるだろ」

「え、ええええ!?」

「まあ、大家をしていることはあんまり会社話してないからな。驚かせたか」


 こともなげに言う課長をぽかんと見つめたまま、もう一度状況を整理する。

 ……ってことは……ってことは、私のお隣さん兼大家さんがまさかの課長っていうこと!?


「永原、お前こそなんでこんな所にいるんだ? もしかして、昨日引っ越してきた人の知り合いなのか? 片づけの手伝いで来たとか」

「いや、手伝いも何も、私、昨日引っ越してきた者なのですが……」

「えっ?」


 今度は課長が驚く番だ。脱脂綿で私のおでこを拭いていた手を止めて、目を丸くしている。


「永原、エイプリルフールはまだ1か月も先だろ」

「いやいや、こんな嘘ついて誰が得するんですか!」


 浅野課長とはほとんど話したことがないのに、思わず突っ込んでしまった。

 ていうか今、ボケた? あの冷徹上司と呼び声高い浅野課長が?
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