冷徹上司は大家さん！？
「たしかに……いや、ごめんな。俺が大家の仕事を代理人に任せっきりだったせいで、こんなことになっちゃって」

「いえ、まあそれは仕方ないですけど……」


　今日の朝礼で言っていた通り、私が引っ越しを決めた２ヶ月前から昨日まで、課長はパリに出張していた。

　今朝日本に帰ってきたばかりなのだから、大家さんとしての仕事ができなかったのも無理はない。


「帰ってきたら新しい入居者がいるっていうからさ、ちょうど今から挨拶しに行こうとしてたんだ」

「……あの、さっきからずっと気になってたんですけど。課長、なんで割烹着を着てるんですか？」

「ああ、次の料理教室で作るレシピの試作をしてて」


　そうだった。課長がこのアパートの大家をしているっていうことは、料理教室を主催しているのも課長なんだ。

　この数分間に色々な情報が入ってきすぎて、私の脳みその処理能力は限界寸前まで達している。


　ただ、今の私には脳みそよりももっと切実に限界を感じているものがあった。
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