冷徹上司は大家さん!?
 メイクを褒められたのなんていつぶりだろう。


 うちの会社は化粧品業界のなかでも大規模なだけあって、メイク上手な女性社員が山のようにいる。

 真っ赤なリップや鮮やかなオレンジのチーク、つけまつげ……そういう派手な化粧品を使いこなす同期に比べたら、私のメイクはすごく地味。

 マスカラとアイライナーは普通の黒、チークとリップは王道のピンクをなるべく悪目立ちしないようにつけるだけ。

 だから、唯一こだわっているアイシャドウのグラデーションを褒めてもらえたことは、内心ちょっと嬉しかった。


 あんなにさらっと褒めるなんて、実はあの人女の扱いに慣れてるんじゃないのかな。私はそんなことを考えながら最寄駅で電車を降り、アパートへと急いだ。

 部屋に帰ると上はシフォンのブラウスのまま、下だけベージュのパンツに履き替える。



 外に出ると、浅野課長はすでにパーカーにジーンズというラフな格好で待っていた。
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