冷徹上司は大家さん!?
 そっか、引っ越してきてから初めて出勤した日はギリギリ間に合う電車に乗ったから、空いていて気付かなかったんだ。

 ってことは、浅野課長と一緒に乗るにせよ乗らないにせよ、満員電車を避けられないことは確かなわけで……。


「ちなみに、俺と一緒に乗れば人混みからガードしてもらえるという特典もある」


 彼はまるで私の胸の内を読んだかのようにそう付け足した。



「どうする? 一緒に乗る? 乗らない?」

「……」



 もう、私に出せる答えは一つしかない。


「の、乗らせて頂きます……」

「やった」 


 そう言うと浅野課長は目を細めてくしゃっと笑った。

 クールなポーカーフェイスとのギャップに一瞬ドキッとしてしまう。


 だめだ、この執念深い商品企画課長には絶対勝てない。


 私は大きくため息をついて、嬉しそうに買い物カートを押す彼の背中を見つめた。
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