冷徹上司は大家さん!?
「あ〜、いろいろ思い出してたら疲れた!」


 回想をストップして、西日で暖まったフローリングから体を起こすと、私はキッチンへ向かった。


「冷蔵庫、冷蔵庫……」

 はっ。さっき引っ越してきたばっかりだから冷蔵庫は全然冷えてないし、そもそも中に何にも入ってないじゃん!

 どうしよう、スーパーでお惣菜でも買ってくるか、外で食べるか……?

 いや、まだこの辺に何があるのかとか全然知らないし……。


 三分考えた後、今日の夕飯はお母さんが仕送りしてくれたインスタントラーメンで済ませることにした。

 明日は仕事が終わった後、挨拶も兼ねて大家さんの部屋を訪ねてみよう。

 料理教室を主催してるくらいだし、きっとこの辺のスーパーや飲食店に詳しいに違いない。

 不動産屋さんからもらった資料を読み返してみると、なんと大家さんの部屋は隣だった。


「なんか緊張するなあ……」


 契約した後に何回か物件について問い合わせたけど、担当してくれたのはいつも大家さんではなく代理の人だった。

 どうやら大家さんは別のお仕事で多忙らしく、面と向かって会ったことは一度もない。


 一体どんな人なんだろう。



 料理が得意だから、食堂か何かで働いているお母さんって感じの人かな?

 それとも、仕事が忙しいってことは大家を副業にしているキャリアウーマンとか……?


 私はまだ見ぬ大家さんに想像を膨らませつつ、荷物の中から鍋を探し出した。
< 4 / 301 >

この作品をシェア

pagetop