冷徹上司は大家さん!?
 その仕事馬鹿はいまだに私のアイラインを分析することに集中している。


「これ、書くときに手震えてはみ出したり目に入ったりしないの?」

「うーん、たまにありますけど綿棒でどうにか修正してます」

「でも朝は忙しいし、一回で確実に書けたほうがいいよな?」

「たしかに、そんな優秀なアイライナーがあったらすごく嬉しいですけど……」

「よし、わかった。じゃ」


 浅野課長は駅に着くと同時に電車から降り、全力疾走といってもいいくらいのスピードで会社へと走っていった。

 この3日間、私のメイクを観察した課長は電車を降りると猛スピードで会社に向かい、うちの商品の改善を上司に提案している。


「すごいエネルギー……」


 残された私は必然的に会社まで1人で行くことになる。

 うちの会社は社内恋愛禁止だけど、これなら周りに誤解されなくて済むしかえって好都合だ。


 浅野課長より10分遅れでデスクについてカレンダーを確認すると、今日はもう金曜日。

 明日はついにアパートでの料理教室だ。

 引っ越してきてからもうすぐ1週間がたつけれど、タイミングが合わないのか、他の住民とはまだ一回も顔を合わせていない。

 都心の1ルーム物件なだけあって、住んでる人のほとんどは独身のサラリーマンやOLだと聞いている。


 明日の料理教室ではみんなと仲良くなれるといいな。


 そう考えながら仕事の準備をしていたら、始業時間になると同時にデスクの電話が鳴った。
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