冷徹上司は大家さん!?
 え? 泣き声じゃなくて、笑い声?


「いや、ごめんごめん。あんまり真剣な顔で聞いてくれるもんだから、即興で作り話しちゃった」

「は!? 今の話、全部嘘ですか!??」


 信じられない。せっかく人が心配してあげたっていうのに!


「ていうか、浅野課長キャラ変わってません? いつもはあんなに無表情なのに」

「え? いつもこんな感じだろ」

「いえ、全然違います。会社では周りの誰にも興味なさそうだし」

「うーん、仕事に集中しすぎてんのかな。化粧品のこと考えるとそればっかりになっちゃって」


 たしかに、仕事の前後以外で浅野課長とまともに会話したのは、これが初めてかもしれない。


「ちなみに言うとさ」

「はい?」

「半分本当だよ、さっきの話。母親が化粧して元気もらってるの見て、俺も化粧品に憧れてて。でも自分で使うことはできないから、作る側になりたいって思ってうちの会社に入ったんだ」

「……そうだったんですか」

「永原の言う通り、魔法みたいだよな。つけるだけで元気になれるなんて」
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