冷徹上司は大家さん!?
 そう言って目を細めて笑う浅野課長に見つめられた瞬間、心臓がきゅっと締め付けられた。

 一瞬、呼吸するのが苦しくなるような感覚に陥る。


「浅野! 全部洗い終わったよ~」


 理沙さんが浅野課長を呼ぶ声で我に返った。


「了解。ちゃんとコゲも全部落としたか?」

「もちろんです。ったく、拓海が天津飯焦がしたせいで手間かかっちゃったよ」

「悪かったって」


 みんなが話している声を聞くうちに、徐々に落ち着きを取り戻す。


 違う、今のは違う。

 ときめいてなんてない。

 まさか、あの浅野課長相手に、そんなことありえない。



 私は自分にそう言い聞かせつつ、洗い終わったお皿の最後の一枚を拭きあげた。
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