冷徹上司は大家さん！？

「明菜、今日は彼氏と会うの？」


　私はまだ少し冷たい夜風を吸い込んで頭を冷やしつつ、気を取り直して話題を変えた。


「うん！　でも彼にはノー残業デーなんかないから、ご飯一緒に食べたらすぐお別れなんだけどね」

「そうなんだ……」

「でもいいの！　忙しい合間を縫って会う時間作ってくれるだけで十分……いや、正直十分とはいえないけど、でも幸せ」


　明菜はそう言って私のほうを振り向き、丁寧に巻いた髪をなびかせてにっこり笑った。


　明菜を見ていると、素直にかわいいなあ、と思う。

　性格が明るいだけじゃなくて、見た目も最大限のかわいさを引き出せるように計算して毎日努力してるし、彼氏とあんまり会えなくても愚痴ひとつ言わないし。


　恋愛に一生懸命で、女の子としての自分を謳歌してて。


　一緒にいて「うらやましいな」「私も真似できたらいいのにな」と思う部分がたくさんある。


きっと好きな人とのハッピーエンドを迎えるのは、私みたいな枯葉女子じゃなくて明菜みたいな「女の子」なんだろうな……なんて卑屈なことを考えていると、駅に着いた。


「じゃあ、私は地下鉄だから。また明日ね！」


　そう言うと、明菜はデート仕様の花柄ワンピースを揺らしなが下り階段へと消えて行った。