冷徹上司は大家さん!?
 明菜を見送り、私も帰宅ラッシュで混みあう改札を抜けてホームに向かう。


 今日は浅野課長に料理を教えてもらう日だ。


 この前の料理教室では自分の不器用さを悟られないよう振る舞うのに必死で、焼き加減だとか野菜の切り方だとかは中途半端なまま終わってしまった。

 上に別の食材や餡をのせたからごまかせたけど、卵は生焼けだったし、キュウリの細切りは端っこが繋がってま
るで七夕の飾りみたいだった。

 自分で自分が作ったものを食べたから、みんなにはばれなかった……はずだと思う。


 2年働いてお金が貯まってきたから一人暮らしに踏み切れたけど、今までずっと実家で暮らしていた私には料理の経験がほとんどない。

 焼くだの煮るだの、まともな料理をしたのは中学校での調理実習が最後な気がする。


 勢いで「毎週水曜よろしくお願いします」なんて言っちゃったけど、こんな腕前を披露したら浅野課長に失笑されるんじゃないだろうか……。

 私はあの鋭い目に見据えられることに緊張しつつ、アパートへと向かった。
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