冷徹上司は大家さん!?
「浅野課長、この前までパリに行ってましたよね。美の本場には、私なんかよりお化粧上手な女性がたくさんいたんじゃないですか?」

「うーん……」


 浅野課長は考え込みながら、フライパンの柄を私に握らせた。


「あっちにはもともと顔立ちが派手な女性が多いからな。上手な人が多いってよりは、あんまり手を加えないメイクが主流な気がする」

「どうせ私はすっぴんに手を加えまくってますよー」

「そんなこと言ってないだろ」


 なんだろう、会社で見る浅野課長とアパートで接する浅野課長って本当に全然違う。


 会社ではいつも貼りついたような無表情でキーボードを叩いて、近寄りがたい存在。

 だけど、アパートでは積極的に関わろうとしてくれて、軽口を叩けるような空気感で。


 そんなふうに接してくれるのは、私が交換条件として毎朝のメイク観察に応じているからなのかな。



 そう考えたら、なんだかアパートでの関係もビジネスライクなものに思えてきて、ちょっと悲しくなった。
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