リアル
あたしは当時、小学2年生くらいだったんだと思う。

でも今思えばあたしは、物心ついてから母の墓に来たのは、あの日がはじめてのことだった。



『ねぇお母さん、早く帰ろうよ』


あたしは重たい空気にすぐに飽きてしまって、お母さんの服を引っ張った。

それでもお母さんは、困ったようにあたしの頭をなでながら、母の墓の前に立ち尽くしていた。


あたしには見えないなにかをじっと見据えたまま、

お母さんは長い時間、母の墓の前に立っていた。





『きっと最近――パパが来てたんだね』


『お父さんが?』


すっかり日も落ちてしまった帰り道。

右手にはあたしの手、左手には夕飯の材料をかかえたお母さんが、ぽつりとつぶやいた。


『うん。きっとお墓のお花は――お父さんが持ってきたんだよ』


『どうしてお父さん?パパも、あのお墓を知ってるの?』



あたしの疑問に、お母さんは少しだけ驚いた顔になり――

なんでもないの、と、小さく首をふった。



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