リアル
「――それで、カイ先輩はなんて……?」


一度ざわつきだした胸はどうにも抑えられなくなり、あたしはたまらず彼に尋ねた。

カイ先輩は驚いたようにあたしの顔を見つめ、少しだけ悲しそうな目で笑った。


「“もう終わったことだろ”って言った。その時のおれには、おまえの顔しか思い浮かばなかった」



あたしにはそれが意外で、
それっきりうなだれるように顔を伏せたカイ先輩を、食い入るように見つめていた。

たとえうそでも、嬉しかった。





「まさか、おまえまで巻き込むことになるとは思わなかったよ……まさか、あいつが薫に会ってたなんて」


そうつぶやいて、カイ先輩はベッドから下りてあたしのそばへと近寄った。

その顔は、今にも泣きだしそうな表情をしていた。


「でもおまえは、おれに話すことも出来ずにひとりで悩んでたんだろ……?

おれの知らないところで、ひとりで苦しんで泣いてたんだろ――…」




きつく、抱きしめられるまでの光景が、まるでスローモーションのように見えた。

カイ先輩のつらそうな顔が、目に焼きついて離れなくなった。




< 241 / 254 >

この作品をシェア

pagetop