リアル
「お疲れさまです」


そんなあたしのネガティブな妄想を打ち破ったのは、誰でもない、ご本人さんの声でした。


「あれ?お疲れ〜。森川、今日は5限までじゃなかったっけ?」


「5限、休講でした」


部室のソファにカバンを置き、そのまま、森川さんはプレハブ部室を出ていってしまった。

どうしようかと一瞬迷い、でもどうしようもないので、あたしも慌ててその後を追った。


「――あの……!」


ガレージでタイヤの整理をしている後ろ姿に、思い切って声をかけた。


「これ……森川さんの、ですよね……?すみません、お借りしてました」


彼はゆっくりと振り返り、あたしの手の中のタオルを見て、うん、と一言だけつぶやいた。


「ありがとうございました」


頭を下げたあたしを、見ていてくれたのかはわからない。

あたしが顔を上げたときには、もう森川さんは自分の車のほうへ、タイヤを転がしながら歩いているところだった。




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