リアル
森川さんと普通に会話が出来るようになったことの喜びを、ありのままにカイ先輩に話した。


「リュウくんも、そのこと心配してくれてたみたいですけど……。今まで全然喋ってもらえなかったのに――だから最近嬉しいんです!」


だってカイ先輩も“よかったな”って言ってくれると思ったから。

森川さんと仲良くなれたことで、また一歩――部員のみんなに近づけた気がするから。


「……ふうん」


でも、カイ先輩から返ってきたのは、あたしの予想とは少し違った反応だった。

先輩はそのまま立ち上がり、メイド服のエプロンのポケットから煙草を取り出した。


「――煙草吸ってくる」


「あ……はい」


テントから出ていこうとして、しゃがんでいたあたしの手の中に何かを置いた。


「ゴチ」


「あ――!」


ひとくち分だけ残されたクレープの端っこ。


「ひどいです!ほとんど食べてるし!」


カイさんはケラケラ笑いながらテントを出ていった。





ひとり残されたあたしは――

なんだか後ろめたい間接キスを、誰にも見つからないよう口の中に放りこんだ。




< 77 / 254 >

この作品をシェア

pagetop