リアル
3.光と影

新しい自分

「――薫」





いつしか、そう呼ばれるようになった。

お互いに慣れないその呼び名――ふたりで顔を見合わせて、くすりと笑った。


「呼び慣れないな」


「うん……」





放課後には、モ会の部室ではなくワンルームのマンションに通うようになった。

特に何を話すわけでもなく――ふたりコタツに座って、テレビを見たり、ときにはゲームをしたり。


「――今度の休み、どこか行きたいとこ、ある?」


「あ……土日……」


デートなんて、生まれてこのかたしたことがない。

返答に困っていたら、彼は優しく微笑んだ。


「ドライブとか、行きたくない?それともこんなふうに、家でだらだらしてる?」


「行きたいです……!ドライブ」


「もう紅葉は終わっただろうけど……ちょっと遠くまで、足をのばそうか」


あたしは無言でうなずいた。


「……家まで送る。もう遅いから。車取ってくるから、待ってて」





森川さんは、コートを羽織り、部屋を出ていった。




< 88 / 254 >

この作品をシェア

pagetop