SECRET COCKTAIL
引きずられるようにして歩き始めた所で、不意に身体が自由になった。
「失せろ」
聞きなれた声音にハッと顔を上げる。
そこに見慣れた人を見つけた。
「おにいちゃ、」
「お前、何だよ」
「俺の連れだから、手ぇ出すな」
お兄ちゃんに腕を引かれて、そのまま抱き込まれて。
その温もりの中で、ほっと息を吐く。
チッと舌打ちする音が聞こえて、酔っ払いの男の人は離れて行った。
「帰るぞ」
不機嫌そうなその声は、お兄ちゃんが怒っている時の物だ。
「・・・はい」
聞きたい事は沢山あった。
でも、黙ったままお兄ちゃんの広い背中を追った。
お兄ちゃんは何も言わなかったし、私も聞くことはなかったけれど。
多分、雅君が連絡していたんだろう。
なんとなく、そう思った。