SECRET COCKTAIL
「う、うん」
「それ、木戸の事なんだ」
「え、」
そのまま彼は、私の肩口に顔を埋めるようにして、耳元で囁いた。
「俺、木戸が好きだよ」
身体の芯まで直接注ぎ込まれる様な、熱っぽい囁き。
どくん、どくんと聞こえる鼓動の音は、もうどちらの物か分からなかった。
「う、嘘」
「嘘でこんな事言う訳ないだろ。入社試験会場で、緊張して飲み物ぶちまけた俺に、嫌な顔もせず自分のハンカチで机も床も拭いてくれて。それだけじゃなく、ライバルになるはずの俺に、頑張ろうねって笑顔で声を掛けてくれた時から、木戸に惹かれてた」
思えばそんな事もあったと、今更ながらに思い出す。
あの時は、私も緊張していたし人も多くいたから、相手が誰だったのか覚えていなかったのだけど。