SECRET COCKTAIL
ネオン街を抜けて一つ路地を入ると、先程までの喧騒が嘘のように人通りが途絶えて。
一気に明るさを失った路地に、薄明りに照らされた小さな看板だけが浮かび上がる。
その対比が意外と好きだ。
目的を持った者だけが訪れを許されるような孤高さがそこにはあった。
小さな電球に照らされた階段を下りると、目の前に銅板で造られた扉が現れる。
ふぅ、と扉の前で軽く深呼吸。
いつも来ている場所なのに、この扉を開ける時は毎回ほんの少しの緊張感に包まれる。
ゆっくり扉を開けて中を伺うと、来客を知らせるベルがチリと小さく控えめに鳴った。
小さなその音に反応するように、カウンターの中のその人の視線がチラリとこちらに向けられて。
「いらっしゃ・・・」
条件反射で声を出したのだろうその人が、少し目を見開くのが分かった。