SECRET COCKTAIL
そんな事は私でも分かっていた。
それなのに。
「行きなよ」
聞こえてきたのは、多田君の穏やかな声だった。
その声に視線を向けると、彼はバツが悪そうに視線を伏せて。
「タイミング悪すぎ。俺はまた出直すから」
優しい顔で笑ってそう言ってくれた。
「多田君・・・」
「俺はいいから。今の木戸にとって、何が優先かって事くらい分かってるつもり」
「でも」
「ちゃんと話した方がいい。それで、さっきの件、良く考えてくれればいいから」
私にそう言って、今度は雅君の方に向き直る。
「じゃあ、高城さん、俺は帰るので、木戸の事よろしくお願いします」
「・・・ああ、分かった」
多田君は雅君に軽く頭を下げて、そのまま階段を上って帰って行ってしまった。