SECRET COCKTAIL
その後ろ姿を視線で追って見送っていると。
「入れよ」
後ろから声を掛けられて、雅君に引き寄せられる様に店内に入った。
チリン、と扉が音を鳴らして閉まると、店内が暗闇に染まる。
雅君は慣れたように店内を歩き、パチンとカウンターだけライトを点けた。
ライトの中に、普段着の雅君がぼうっと浮かび上がる。
人がいなかった店内は、空気がひんやりと冷たくて、静けさが際立ってどことなく物悲しさが漂っている様に感じた。
上着をスツールに掛けた雅君は、そのままカウンターに入ってグラスを取り出して何かを作り始めた。
それだけで、静かなままの店内が、徐々に息づいていくから不思議だ。